一次試験を5ヶ月で突破した山口真一さんを待っていたのは、わずか2ヶ月半で挑む中小企業診断士二次試験だった。

最後の模試まで合計点は一度も合格基準に届かず、本番直後にも「今年は経験できただけで、合格は多分していないな」と感じていたという。

それでも結果は合格。しかも、合格基準の240点をわずか2点だけ上回る、ぎりぎりの突破だった。

手応えと結果は、なぜここまでずれたのか。
そして山口さんは、限られた時間をどこに集中したのか。

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TACではなく、AASを選んだ2ヶ月半の現実

—— 一次試験の直後、二次試験の予備校を選び直す際に、何を基準に比較しましたか。

「一次試験が終わった後、自己採点したらなんとか合格していそうだということになって。そこからまた予備校探しに着手した、という感じでした」

「TACでそのまま続けることも考えました。ただ、TACの二次試験対策は、一次試験の学習期間中から並行して進んでいる部分がありました。すでに他の受講生は二次の準備を始めている。そこに一次試験後から入ることに、不安がありました」

さらに、口コミを調べる中で別の懸念も浮上する。

「口コミを見た時に、TACの講師は完璧な答案を求めているという話を見たんです。今から時間が2ヶ月半ぐらいしかないので、完璧を目指されても困るな、ということも思いました」

—— ほかの予備校はどうやって見つけたのですか。

「他の予備校も見てみようかとWebで探した時に、二次試験だけに特化した予備校もいくつか見つかりました。それでAASという学校を見つけて」

「そこは一次試験が終わってからでも、2ヶ月半で合格を目指すオンラインのカリキュラム設計がありました。速修コースのようなものがあって、もうこれに乗っかるしかないかなと思いました」

選んだのは、二次試験対策に特化した予備校AASの「WEB短期合格速修コース」だった。

—— AASのフィードバック型学習は、限られた時間の中でどう機能しましたか。

「私は100%リモート、Webでやりました」

「すでに公開されている教材があって、過去分は自分のペースで進める形でした。動画でノウハウをインプットして、問題をダウンロードして、自分で答案を作る。その答案にフィードバックをもらって、また見直すという流れです」

動画でノウハウをインプットし、自分で答案を作成し、それに対するフィードバックを受け取る。リアルタイム授業ではなく、非同期で進めるスタイルだった。

—— このスタイルの良し悪しはどう感じていましたか。

「良い悪いは少し分からないところもあります。自分にペース配分を任されている分、気分が乗らない日もあったので。この日は学校に行って授業に出るんだ、というペースがあっても嬉しかったかなとは思います。そこは一長一短だと思いました」

「ただ、問題を解く作業を業務の空き時間にできたのは、フルリモートのメリットだったと思います」

論述経験はあった。それでも診断士二次試験には「お作法」があった

—— 二次試験の問題形式には、最初から抵抗はありませんでしたか。

「最初に中小企業診断士という資格についてリサーチした時に、二次試験は筆記試験になるというのは知っていました」

「それを見た時に、大学院の受験のことを思い出しました。私は最終的に行ったコース以外に、一橋や早稲田のMBAも受けていて、その時に問題文を読んで、それについて回答を論述する形式の試験対策をしていたんです」

「大学院受験のための予備校にも行っていたので、筆記試験の解答の仕方のようなところは少しやっていました。それを思い出して、対応できるかなとは思いました」

二次試験の形式そのものに、全く免疫がなかったわけではない。山口さんには、大学院受験で問題文を読み、論述で答える形式に触れた経験があった。

「やってみると、この診断士試験、二次試験のお作法みたいなものがあるというのは、予備校のフィードバックの中でいろいろ学んでいった感じですね」

論述形式の経験はあった。
しかし、診断士二次試験には、診断士二次試験の「お作法」がある。その違いを埋める役割を果たしたのが、AASのフィードバックだった。

「予備校の言っている通りに書いているつもりなのに、後で見ると要素が抜けている」

—— 事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの答案づくりで、ご自身が一番手応えを掴めなかった部分はどこでしたか。

「結論、どれが得意、どれが不得意というのはあまりなくて。ずっと悪かったんです」

「演習結果を見ても、後半になるにつれて安定してきたという感じはありませんでした。全然合格点に行く回もなかったですし、この事例は安定して取れるな、というものもありませんでした」

事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲに関しては、AASの演習でも、どの科目も合格点に届かない状況が続いていた。

「事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲは伸び悩んでいる感覚が自分でありました。予備校が言うとおり、そのまま答案の解き方としてやっているつもりなんだけど、この要素が抜けているよ、と言われる。後で見ると、やっぱり気づくんです」

「予備校の言うとおりに回答を作っているつもりが、後で見ると要素が抜けている」

この発言からは、二次試験における「回答方法をわかっている」と「制限時間の中で実際にできる」の間にある距離の大きさが伝わってくる。

—— 予備校の解法と自分の考えがぶつかったとき、どう折り合いをつけていましたか。

「一次二次を通して、自分がすごく短期間で対策しているという自覚がありました。一次試験はTACの言っていることに乗っかるのが一番だと思いましたし、二次試験もAASのノウハウを真似する以外ないなと思いました」

「一旦は予備校が言っていることを受け入れる。自分の予備知識があったりなかったりしますし、思うところはいろいろ感じながらも、あまり自分を出さないで、予備校の言ったことに基本的には従った方が合格への近道じゃないかと考えていました。相手は中小企業診断士試験の専門家なので」

—— その姿勢の中でも、納得できない点はどう処理していましたか。

「私が使っていたAASでは、他の人の質問が受講生に見える形で公開されていました。それに対する講師の回答も、みんなが見られるんです。匿名なんですけど、どれだけの人数の人が質問しているかは全員に見える形でした」

「でも、時間が経つにつれて、質問する人はどんどん減っていったんですよね」

「私は気になることは、結構すべての問題に対して質問していました。回答を見て、『これはこういう意味だったのか』と納得できることもあれば、最終的に納得できず、『この考えは取り入れるのをやめよう』と思ったこともあります」

「予備校に従う」と「自分で考える」は、山口さんの中では両立していた。質問を出し続け、その回答を見たうえで「採用するかしないか」を自分で決めていた。

最後の1ヶ月、事例Ⅳに時間を集中した

—— 事例Ⅳに集中すると決めたタイミングと、その理由は何でしたか。

「いくつか体験談を見た時に、事例Ⅳはやっただけ伸びると言われていて」

「時間が限られている中で、予備校の言っている要素を漏れなく答案に反映するというのが、途中でこれ以上やっても伸びていないかなと感じていました。一方で、事例Ⅳはやっただけ伸びるという情報があったので、最後の1ヶ月は、事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲより事例Ⅳにすごく時間を使いました」

「もうⅠ・Ⅱ・Ⅲを自分で伸ばすのを半ば諦めて、事例Ⅳを伸ばすことにフォーカスしました」

「半ば諦める」――短期決戦における時間配分の意思決定として、これほど明快な言葉はない。

もちろん、事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを完全に捨てたわけではない。AASの演習も続け、答案づくりも行っていた。ただ、残り時間で大きく伸ばす対象としては、事例Ⅳに集中した。

—— 事例Ⅳに時間を集中したのは戦略的な判断でしたか。

「事例Ⅳって、まぐれでは取れないじゃないですか」

事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲは、与件文の読み取りと因果関係の整理に「お作法」の習熟が必要で、短期間で安定させづらい。一方の事例Ⅳは、財務指標分析、CVP、NPV、キャッシュフロー計算など、反復によって得点の再現性を高めやすい領域がある。

—— 複数の問題集を、どう使い分けていましたか。

「TAC出版の『中小企業診断士 第2次試験 事例IVの解き方』は、比較的易しい内容だったので、まず最初にやりました。さらに得意にするために、別の問題集にも取り組みました」

続けて山口さんが事例Ⅳ対策で中心的に使ったのは、AASの『中小企業診断士2次試験事例IVハイスコアマスター〜計算力で勝ち抜け! 80点超えを目指す実践問題集〜』だった。

「新しいAASの問題集があって、少し難しいものです。あと、『意思決定会計講義ノート』、通称イケカコですか。あれはAASの中でやるようにというアドバイスがあったので、それもやりました」

『意思決定会計講義ノート』(通称:イケカコ)にも取り組んだ。事例Ⅳ対策では、AASの教材を中心にしながら、より難度の高い問題にも触れていた。

「ちょうど受験勉強をしている時期に、私の使っていた予備校が新しい本を出版していました。事例Ⅳだけの問題集なんですけど、易しい問題から難しい問題まで、よく出る領域の試験対策ができました」

「これをかなりやったので、事例Ⅳについてはどの分野の問題が出てもある程度対応できるんじゃないか、というところまではいきました」

まず易しい問題で型を固め、AASの教材や『意思決定会計講義ノート』(通称:イケカコ)で難度を上げていく。事例Ⅳの学習は、段階的に積み上げられていた。

手応えなき本番、ボーダー+2点という結果

—— 本番直後の手応えはどうでしたか。

「最後の模試でも合格点には達していないので、今回の試験で受かるという手応えは全くないまま本番を迎えていました」

「終わった後も、今回は経験はできたけど、合格は多分していないな、という感覚で試験を終えました。二次については、まぐれだったのかなという感覚ではいますね」

—— 試験後の振り返り会には参加されましたか。

「二次の振り返りのような会に出ました。私はTACの解説会に出たのかな。解説と模範解答を見せてくれるものに出まして」

「自分の再現答案は作らなかったんですけど、本番の回答下書きのような紙は持っていました。それを見返しながら解説を聞いていたら、結構違うな、この要素は自分は入れていなかったな、というのがたくさん見つかりました」

「事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲについては、あ、ダメだ、ダメかもな、という感じでした」

—— 事例Ⅳの手応えはどうでしたか。

「事例Ⅳについては、ある程度、自分が解答した方向は合っていたなというのはあります。ただ、全問は解答できていないんですよね」

「時間が足りなくて、最後の1問は途中までしかできませんでした。それに、割引率のところで、問題用紙からメモ用紙に転記する時にミスがあったりしたのも見つかりました」

「結構その解説セッションの中では、ダメなところが見つかったということで、暗い気持ちで終わりました」

最も時間を投じた事例Ⅳですら、本番では計算ミスと時間切れに見舞われていた。

—— 結果として、各事例の得点はどうでしたか。

二次試験の本番得点は、事例Ⅰ:56点、事例Ⅱ:60点、事例Ⅲ:57点、事例Ⅳ:69点。合計242点。

合格基準である240点をわずか2点上回るだけの、文字通りのぎりぎり突破だった。

「他の凹みを事例Ⅳが補ってくれて、二次試験に受かったという結果なので。結果的に、作戦が良かったのだと思います」

事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの合計は173点。事例Ⅱは60点に届いたものの、事例Ⅰと事例Ⅲは60点を下回っていた。その中で、事例Ⅳの69点が全体を押し上げた。

2ヶ月半の二次試験を突破できた背景にあった3つの要素

山口さんの語りを整理すると、二次合格の背景には、次の3点があった。

1. 完璧主義を避けた予備校選び

「TACで途中合流する不安」と、「完璧な答案を目指すことへの不安」。この2つを回避し、一次試験後からでも2ヶ月半で合格を目指す設計を持つAASのWEB短期合格速修コースを選択した。

2. 「半ば諦める」という時間配分の決断

事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲで「これ以上やっても大きく伸びないかもしれない」と感じた時、無理にすべてを底上げしようとはしなかった。

最後の1ヶ月は、反復によって得点の再現性を高めやすい事例Ⅳに集中した。同じ時間を、最も伸びる可能性がある場所に配分した。

3. 従順さと主体性の同居

予備校のノウハウを基本的に受け入れる一方で、納得できない論点は質問を出し続けた。そして、回答を見たうえで、最終的に「採用しない」判断もしていた。

短期合格者にありがちな従順だけの姿勢ではなく、自分の頭で取捨選択する作業を欠かさなかった。

次回予告

「自分にあまり期待していなかった」と語る山口さん。

短期決戦を選んだ背景には、業務との両立、家族のサポート、そして「精神論を受け止めすぎない」というメンタル設計があった。

第3回では、合格を支えた人間面と、これから受験に向かう人へのメッセージを掘り下げる。

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しばたろー
大手素材企業でマーケティング、新規事業創出、M&A、スタートアップの事業化支援などに従事しながら、中小企業診断士としても活動。 専門領域は中小企業のマーケティング、新規事業創出、オープンイノベーション。