中小企業診断士一次試験に向けて、3月から学習をスタートし、その年の8月に一次試験を突破した山口真一さん。

学習期間だけを見れば、「短期決戦の成功例」として括ってしまえるかもしれない。しかし話を聞いていくと、その内側には、自分の経歴と7科目の重なりを冷静に棚卸しする作業、模試で突きつけられた「合格基準まであと2点」、そして苦手科目に対する手段の使い分けがあった。

派手な逆転劇ではない。判断を一つひとつ積み上げた人の話である。

なぜ、修士論文を提出した翌月に診断士の説明会に向かったのか。

プロフィール

  • 氏名:山口 真一(やまぐち しんいち)
  • 合格年度:2025年度(令和7年度)
  • 合格までの年数:1年(ストレート合格)
  • 主な勉強方法:TAC(一次試験)/AAS(二次試験)

修士論文を提出した翌月、TAC新宿校の説明会へ

—— まず、現在のお仕事と直近のご経歴を教えてください。

「私はずっとITの会社に勤めてきました。ITの中でも、企業の業務システムを構築したり、提案したりする仕事をずっとやってきています。近年は、SAPという企業向け基幹システムを販売する会社で、人事システムをお客様に提案する仕事をしています」

「お客様の人事の方と交流するので、人事の専門性をつけたいと思いまして、社会人大学院に通いました。経営学の中でも、人材開発と組織開発という領域の修士号を取ったのが、2025年3月でした」

山口さんが取得したのは、人材開発・組織開発に特化した経営学修士だった。

—— 大学院を修了されたあと、なぜ次のステップとして診断士を選ばれたのですか。

「すっごく単純なところで言うと、大学院に二年間通って、すごくハードな生活をしていたんですけど、それが終わった時に、何もやらないことへの不安がまず最初にあって。これは何かやらなきゃいけないなと」

—— 大学院で学んだことを、そのまま仕事につなげる道は考えなかったのでしょうか。

「修士課程で勉強したことを使って、独立したり、それを仕事にする仲間もいるんですけど、大学院で学んだ知識だけで、すぐに仕事になる感覚はなかったんですね」

「学んだ知識をより仕事に生かしたいと思った時に、中小企業診断士という資格があれば、大学院で学んだことも生かしながら、お金を稼げる力をつけられるんじゃないかと思って」

—— 「お金を稼げる力」とは、具体的にどんな働き方をイメージしていましたか。

「大学院に行こうとしたきっかけは、本業で対峙しているお客様が人事部の方なので、その方に対してより専門的なアドバイスをしたり、システム導入の提案の質を上げたりするところでした」

「その時に同時に少し考えていたのは、将来的に副業をしたり、独立したりして、コンサルタントとして企業の人事に対してアドバイスするようなコンサルティング業務です」

「実際、大学院の卒業生の中には、人事分野のコンサルティングを専業にして独立されている方もいらっしゃるコースだったんですよね。身近にそういう方もいて、自分もいつかはコンサルタントとして独立できたらいいなという感覚は持っていました」

「ただ、すぐにコンサルタントの仕事ができるところまで、大学院修了時点では自分に力が足りないんじゃないか、という感覚も持っていました」

—— TACの説明会に行く前と後で、診断士という資格への見方はどう変わりましたか。

「2025年の2月にTACの説明会に行っているんですね。診断士というのはどんな資格で、受験勉強はどれぐらい大変なものかを説明してくれる説明会に行って」

「そこで説明してくださった中小企業診断士でもある講師の方に、自分のバックグラウンドを話したんです。そうしたら、『山口さんならできるかもしれないよ』『受かるかもしれないよ』と言ってもらって」

「それでその気になって、その後申し込みました。実際に授業に出始めたのは、3月ぐらいからだと思います」

「できるかもしれない」――講師のこの一言が、5ヶ月後の一次合格までの起点になっている。

ゼロからではなかった一次試験。過去の経験が効く科目を見極めた

—— 診断士一次試験は7科目あります。最初に見渡したとき、どの科目に手応えと不安を感じましたか。

「資格の内容を見たり、過去問をパーッと見たりした時に、自分の過去の経歴や知識が役に立ちそうな領域がいくつかあるな、という感覚は持っていました」

—— 具体的にはどう仕分けていったのでしょうか。

「企業経営理論は、まさに大学院の中でも戦略や人事組織を勉強していたので、活かせそうでした」

「財務・会計については、私が若い頃、人事システムではなく会計システムの担当だった時に、簿記の勉強をしていた記憶がありました」

「経済学・経済政策も、すごい大昔に大学の学部の授業で見たことがあるな、こんなグラフを勉強したな、という感覚がありました。運営管理の中の生産管理も直接やったことはないんですけど、会社がERP、つまり企業の基幹業務システムを扱っていたこともあって、なんとなく考え方は見たことがあるなと」

「経営情報システムについては、自分のキャリアがITなので、ずっとやってきた範囲です。残る経営法務と中小企業経営・政策は、全く見たことがないなという感覚でスタートしました」

もちろん、7科目すべてが過去の経験と重なっていたわけではない。経営法務と中小企業経営・政策は、ほぼ未知の領域だった。それでも複数科目に、過去の知識や仕事の経験と接続できる部分があった。

—— 実際にTACの教材で勉強を始めてみて、どう感じましたか。

「実際に教材を見てみたら、ほとんど忘れていたり、勉強し直しだったりはしました。ただ、とっつきにくさというか、なんだこの領域は全くわからないぞ、という感じはあまりありませんでした」

「しょうがないからもう一回覚え直そう、という感じでした」

—— 仕事をしながら、平日と休日の勉強時間はどう組み立てていましたか。

「TACの授業がベースでした。新宿校で週末に授業を受けるのが、基本のペースになっていました」

「途中からは、新宿校で一日に二科目やるよりは、平日に一回八重洲校にも行って、分散させた方が集中力が保てるなと感じました。先生を見ながら、この先生の授業よりこっちの先生がいいなと受ける授業を選択しました」

—— 平日の夜は何に時間を充てていましたか。

「業務後に二、三時間復習をしていました。私がTACに行き始めたタイミングでは、すでに終わっていた授業もありました。平日の夜は、それを動画でキャッチアップすることと、TACの『トレーニング』という問題集を何度も見直すことに充てていました」

週末の通学授業と、平日の動画キャッチアップ。この二本立てで、3月開始の遅れを埋めていった。

模試で「あと2点」――直前期に何を組み替えたか

—— 模試までの段階で、どの科目に手応えと不安を感じていましたか。

「最初は、中小企業経営・政策のように全くやったことがない科目の点数が悪いな、と思っていました」

「ただ、だんだん後になるにつれて思ったのが、60分の科目と90分の科目があって、60分の科目は問題数が25問だと思うんですけど、60分科目は得点の振れ幅が大きいということでした」

模試までの得点推移を見ると、山口さんが話していた「60分科目の振れ幅」が見えてくる。

以下は、TACの答練・模試と本番の得点を並べたものだ。
「養成」「完成1」「完成2」は、TACの演習・答練時の得点である。
なお、本番得点は正式な得点通知ではなく、山口さんの自己採点・本人記録ベースである。

科目試験時間養成完成1完成2模試本番
経済学・経済政策60分5648684880
財務・会計60分9272565260
企業経営理論90分6048626973
運営管理90分7566547377
経営法務60分6962534460
経営情報システム60分6673656452
中小企業経営・政策90分5746456876
合計475415403418478

60分科目は、回によって得点が大きく上下していた。特に経済学・経済政策、財務・会計、経営法務は、模試時点で不安が残る科目だった。

—— その振れ幅を踏まえて、どんな対策を打ちましたか。

「25問しかない中で大きく外すと、すぐに50点を割ってしまうんですね。そういう傾向が続きました」

「経済学・経済政策や財務・会計は、分かる問題は分かるんですけど、分からない問題はすごく落としてしまうことが分かりました。そこで、TACの追加講座を買って、力を入れ直したところはあります」

「経営法務も60分で振れ幅があったので、パックで何か買うというよりは、自分で法務の過去問を繰り返しやった感じですね。経営法務も不安があったので」

経済学・経済政策と財務・会計では、TACの直前期向け科目別講座を利用した。一方、経営法務は追加講座ではなく、過去問を自分で繰り返す形で対策した。

同じ60分科目の弱点でも、追加講座で補強する科目と、自力で過去問を回す科目を切り分けていた。

一方で、経営情報システムは、それまで比較的安定していたため、意識的に時間を減らしたという。結果的に、自己採点・本人記録ベースで本番60点を下回ったのは、経営情報システムだけだった。

—— 模試の結果はどうでしたか。

「模試では418点でした。一次試験の合格基準は420点なので、あと2点だったんです。ここで恐怖というか、やばいと思って、もう一度頑張るきっかけになりました」

—— 本番はどうでしたか。

「結果的に、この年のTACの模試で扱われた論点が、本番でもかなり出たんですね。本番中に、『これも見た』『あれも見た』と思いました」

追加講座を入れた経済学・経済政策は、模試48点から本番80点へと大きく伸びた。経営法務も、模試44点から本番60点まで押し上げている。

山口さんの記録では、本番は合計478点。自己採点ベースでは、合格基準の420点を58点上回る結果だった。

5ヶ月で一次試験を突破できた背景にあった4つの要素

山口さんの語りを整理すると、5ヶ月での一次合格を支えたのは、次の4点だった。

1. ゼロからの挑戦ではなかった

簿記、IT、ERP、経営学修士で学んだ戦略や人事組織。7科目のうち多くの科目に、過去の知識や仕事の経験と接続できる部分があった。

完全な新規習得ではなく、「思い出して上書きする」勉強にできたことが、5ヶ月合格の土台になっていた。

2. 予備校を信じて走った

独自の勉強法を組み立てる時間を使うのではなく、TACの授業・動画・トレーニング本を素直に回した。

「一次試験はTACの言っていることに乗っかるのが一番」――この割り切りが、限られた時間を効率に変えた。

3. 苦手科目で手段を分けた

経済学・経済政策と財務・会計は、直前期向けの追加講座で補強した。一方で、経営法務は過去問の自力反復で対策した。

同じ60分科目の弱点でも、追加講座で補強する科目と、自力で過去問を回す科目を切り分けていた。

4. 模試を未知の領域を炙り出す装置として使った

合計点が一度も合格基準に届かなくても折れず、復習を直前期の中心に据えた。

結果として、模試で扱われた論点が本番でも出たことも追い風となり、経済学・経済政策は自己採点ベースで本番80点まで伸びた。

次回予告

一次試験を5ヶ月で突破した山口さんを待っていたのは、わずか2ヶ月半後に迫った二次試験だった。

最後の模試まで一度も合格点に届かず、本番直後も「今年は経験できただけ」と感じていたと振り返る。それでも合格を掴んだ裏には、「事例Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを伸ばし切ることに固執しない」という思い切った判断と、予備校選びの分岐点があった。

第2回では、二次試験における割り切りの戦略を深掘りする。

事例Ⅳに最後の1ヶ月を捧げた中小企業診断士二次試験、2ヶ月半の戦略|STCラボ

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しばたろー
大手素材企業でマーケティング、新規事業創出、M&A、スタートアップの事業化支援などに従事しながら、中小企業診断士としても活動。 専門領域は中小企業のマーケティング、新規事業創出、オープンイノベーション。