「今思えば、勉強すること自体が楽しかったんですよね。」

中小企業診断士試験に挑戦した約5年間を振り返り、Tさんはそう話します。

もちろん、途中には219点、236点という悔しい結果もありました。

それでも受験をやめようとは思わなかったのは、「勉強が嫌ではなかった」からだといいます。

仕事、家庭、そして受験。

その三つを両立できた背景には、特別な才能ではなく、自分に合ったペースで学び続ける工夫がありました。

「勉強する時間」を探すのではなく、生活の中に組み込んだ

——仕事と受験勉強は、どのように両立されていましたか。

「朝早く起きて勉強する生活は、ずっと続けていました。

平日は朝に過去問を解いて、通勤時間はテキストを読む。

そのリズムは、一次試験の頃からほとんど変わりませんでした。」

一次試験に合格したあとも、学習習慣は大きく変わりませんでした。

特別な勉強期間を設けるのではなく、朝の時間、通勤時間、休日という生活のリズムの中で学び続けます。

仕事が忙しくなったからやめる、という発想ではなく、「続けられる形」を維持することを大切にしていました。

「勉強が息抜きだった」と振り返る理由

——5年間も勉強を続けて、苦しくなることはありませんでしたか。

「仕事が結構忙しかったので、逆に勉強している時間が息抜きみたいな感じでした。」

この言葉は、第1回でも少し触れました。

しかし、改めて5年間を通して振り返ると、Tさんにとって勉強は「やらされるもの」ではありませんでした。

もちろん、毎年試験を受け続けることは簡単ではありません。

それでも、新しい知識を学ぶこと自体は楽しく、生活の一部になっていたといいます。

——途中で「もうやめよう」と思ったことはありましたか。

「それはなかったですね。236点だった年はかなりショックでしたけど、あと4点でしたから。

ここまで来たら、やめたらもったいないと思いました。」

第2回でもお話しいただいたように、236点だった年は最も悔しい一年でした。

それでも、「受験をやめる」という選択肢はありませんでした。

続けることが目的だったわけではありません。

「ここまで積み重ねてきたものを、最後までやり切りたい。」

その思いが、次の一年につながっていきます。

一人では見えなかった景色を、仲間が教えてくれた

——勉強会に参加して、一番印象に残っていることは何ですか。

「本当にいろいろな方がいました。

優秀な人も多くて、『この人でも受からないんだ』と思うこともありました。」

一次試験までは、一人で勉強を続けてきたTさん。

二次試験では、勉強会やTACで多くの受験生と出会います。

答案の書き方だけではありません。

仕事をしながら学ぶ人、子育てと両立する人、何年も挑戦を続ける人。

それぞれが異なる環境で努力していることを知ったといいます。

——周囲の存在は、ご自身にどのような影響がありましたか。

「刺激になりましたね。

自分ももっと頑張らなきゃ、と思いました。」

勉強会は、「教えてもらう場所」だけではありませんでした。

同じ目標に向かって努力する仲間がいることが、受験を続ける力にもなっていました。

診断士試験を通して、一番変わったこと

——5年間を振り返って、ご自身が一番変わったと思うことは何ですか。

「物事の考え方ですね。」

一次試験では、知識を積み重ねることで結果につながりました。

二次試験では、その知識をどう使うかを考え続けました。

社長が何に困っているのか。

与件文から何を読み取るのか。

そして、どう助言すれば会社が良くなるのか。

Tさんにとって、中小企業診断士試験は、単なる資格試験ではなく、「考え方」を学ぶ時間でもありました。

「これ、受かったってことですよね。」

——合格発表の日のことを教えていただけますか。

「正直、難しいだろうなと思っていたんです。

会社の席でスマートフォンを開いて、合格発表を見たら、何だか意味がよく分からない文章が出てきたんですよ。」

Tさんは、合格発表の日も普段どおり会社で仕事をしていました。

休暇を取って発表を待っていたわけではありません。

いつものように職場でスマートフォンを開き、受験番号を確認します。

——そのとき、どのような画面だったのでしょうか。

「『口述試験を受ける権利を得ました』と書いてあったんです。

それを見て、『これ、受かったってことじゃん』と思って。」

しかし、その場では確信が持てませんでした。

「周りの人に、『これって、そういうことですよね』って確認しました。

『受かったんだよ』と言われて、初めて実感しました。」

その瞬間の気持ちを、Tさんはこう振り返ります。

「もう、本当に天にも昇る気持ちでした。」

派手な演出はありません。

仕事中、会社の席でスマートフォンを開き、同僚へ画面を見せる。

5年間の挑戦は、その何気ない日常の一場面で、大きな節目を迎えました。

最初に伝えた言葉は「ありがとう」

——ご家族には、すぐに報告されたのですか。

「はい。家族にはすぐ連絡しました。

『本当にありがとう。長い間ありがとう。』と伝えました。」

5年間、仕事を続けながら受験勉強を積み重ねてきました。

朝早く起きて勉強し、休日は図書館へ通う生活。

決して家族が受験勉強をしていたわけではありません。

それでも、Tさんは最初に「ありがとう」という言葉を伝えました。

その一言には、受験を支えてくれた家族への感謝が込められていました。

合格はゴールではなく、新しいスタートだった

——合格した今、中小企業診断士という資格をどのように感じていますか。

「本当に受けて良かったと思っています。」

Tさんは、学生時代から興味を持っていた資格に、54歳で挑戦しました。

最初は簿記3級の不合格から始まりました。

一次試験では516点を取りました。

一方で、二次試験では219点、そして236点という悔しい経験もしました。

それでも、一つひとつの経験が無駄だったとは考えていません。

「勉強を通して、物事の考え方が変わりました。」

この一言に、5年間の歩みが凝縮されています。

知識を増やすことだけではなく、相手の立場で考えること。

会社全体を俯瞰して見ること。

経営者へ助言する視点を持つこと。

中小企業診断士試験を通して身につけたものは、資格だけではありませんでした。

これから挑戦する受験生へ

——最後に、これから中小企業診断士を目指す方へメッセージをお願いします。

「途中で思うように結果が出なくても、続けていれば少しずつ見える景色は変わってきます。

私も最初は、二次試験がどういう試験なのか分かっていませんでした。

でも、勉強を続ける中で、少しずつ考え方が変わっていったんです。」

Tさんの5年間は、決して一直線ではありませんでした。

一次試験を突破した成功もあれば、二次試験で何度も立ち止まった時間もあります。

それでも、一歩ずつ積み重ねた経験は、最後につながりました。

「診断士試験は、知識だけではなく、自分の考え方も成長させてくれる試験です。」

その言葉は、5年間を歩き切ったからこそ持てる実感なのだと思います。

おわりに

簿記3級の不合格から始まった挑戦。

516点で突破した一次試験。

219点、236点と続いた二次試験。

そして、会社の席で見た「口述試験を受ける権利を得ました」という画面。

一つひとつの出来事だけを見ると、どれも特別なエピソードではないのかもしれません。

しかし、それらをつないでいたのは、「結果が出ても、出なくても学び続ける」というTさんの姿勢でした。

知識を積み重ねることから始まり、考え方を変え、人とのつながりの大切さを知る。

この5年間は、中小企業診断士試験への挑戦であると同時に、一人の社会人が新しい視点を身につけていく時間でもありました。

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浦 美和子
人材派遣会社で営業担当として、採用、配属後のフォロー、職場改善などに従事。2017年に中小企業診断士と国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得。現在は独立開業し、中小企業の経営支援を行う。得意分野は、人事労務・人材育成、事業承継など。