中小企業診断士一次試験を516点で突破したTさん。

自己採点の結果を見たときは、自分でも驚いたと振り返ります。

一方で、その成功体験は、「二次試験も何とかなるだろう」という見方につながっていました。

「今思えば、二次試験をよく分かっていなかったんです。」

模範解答が公表されない試験。正解が一つではない試験。

一次試験とはまったく異なる世界に戸惑いながら、Tさんは「知識を増やす勉強」から、「考え方を学ぶ勉強」へと少しずつ変わっていきます。

「516点取れたのだから、何とかなる」と思っていた

——一次試験を終えたとき、二次試験はどのような試験だと思っていましたか。

「正直、よく分かっていませんでした。

一次試験で516点取れたので、『合格率も20%くらいあるし、何とかなるだろう』というくらいに考えていました。」

第1回の最後でもお話しいただいたように、Tさんは一次試験で516点という高得点を獲得しました。

それまで積み重ねてきた学習が結果につながったことで、「この勉強の延長線上に二次試験もある」と考えていたといいます。

今振り返ると、その認識自体が、二次試験を理解するうえで最初の壁だったそうです。

「ふぞろい」を読んでも、何が正解なのか分からなかった

——二次試験の勉強は、どのように始めましたか。

「まず『ふぞろい』を買いました。

人気があって売り切れていたので、フリマサイトで少し高い値段で買った記憶があります。」

当時、二次試験対策として最初に手に取ったのが『ふぞろいな合格答案』でした。

合格者の答案を読み、過去問を解けば理解できるだろうと考えていたそうです。

しかし、読み進めるうちに、思うようには理解できませんでした。

——どのようなところが難しかったのでしょうか。

「合格答案は載っているんですけど、『どうしてこういう答えになるのか』が分からなかったんです。

『レイヤー』という言葉も出てくるんですけど、その意味も全然理解できませんでした。」

一次試験では、テキストを読み、過去問を解き、知識を積み重ねることで点数につながりました。

一方、二次試験では、同じ合格答案を見ても、「なぜそう考えるのか」が理解できません。

この頃のTさんは、まだ「答え」を探していました。

一方で、二次試験で求められていたのは、「答え」よりも、その答えにたどり着く思考の過程でした。

「文章をしっかり書けば大丈夫」と思っていた

——最初の二次試験では、どのようなことを意識して答案を書きましたか。

「起承転結がしっかりした文章を書けば、何とかなるんじゃないかと思っていました。

一次試験で点数も取れていましたし、そんなに難しく考えていなかったですね。」

また、一年目は、自分の答案を誰かに見てもらうこともありませんでした。

勉強会にも参加せず、答案の添削も受けず、本番を迎えます。

——試験当日は、どのようなお気持ちでしたか。

「『何とかなるだろう』というくらいの気持ちでした。

終わってみると、時間は足りませんでしたし、書けなかったところもありました。

でも、模範解答がある試験ではないので、自分でも『こんなものなのかな』という感じでした。」

「できた」という手応えも、「できなかった」という確信もありませんでした。

相対評価であることもあり、「みんなも難しかっただろう」と考え、大きく悲観することもなかったといいます。

219点という数字が、初めて現実を教えてくれた

——結果を見たときは、どのように感じましたか。

「219点でした。

21点足りなかったんです。

点数を見て初めて、『こんなにできていなかったんだ』と思いました。」

それまでTさんは、「難しかったけれど、相対評価だから何とかなるかもしれない」と考えていました。

しかし、219点という結果は、その見方を大きく変えます。

「『ふぞろい』で書かれていることも理解していなかったし、勉強会にも参加していませんでした。

そう考えると、当たり前だったのかなと思いました。」

知識が足りなかったというよりも、二次試験そのものを理解していなかった。

Tさんが最初に気づいたのは、その事実でした。

「あと4点」が、一番大きな転機になった

——219点という結果を受けて、次はどのように勉強を進めたのですか。

「二次試験がどういう試験なのか、もう一度勉強し直そうと思いました。

通信講座も受けましたし、YouTubeも見るようになりました。」

一次試験では、一人で学習を組み立て、516点という結果につなげました。

しかし二次試験では、「一人で理解すること」の難しさを感じ始めます。

その頃、よく視聴していたのが、野網先生のYouTubeでした。

——どのようなことを学ばれたのでしょうか。

「今まで分からなかった『レイヤー』という考え方が、少しずつ分かるようになりました。

『ふぞろい』を最初に読んだときは全然理解できなかったんですけど、説明を聞いて、『そういうことだったのか』と思いました。」

知識が増えたというよりも、問題を見る視点が少しずつ変わっていきました。

「どう書くか」ではなく、「なぜその助言になるのか」を考える時間が増えていったといいます。

少しずつ点数は伸びた。それでも届かなかった

——勉強を続ける中で、手応えは変わっていきましたか。

「少しずつ点数は上がってきました。

前年よりは良くなっている感覚はありました。」

理解が進むにつれ、結果も少しずつ変わっていきます。

一方で、「あと一歩」が届きません。

毎年、何かが足りない。

そんな受験が続きました。

——一番印象に残っている年はありますか。

「236点だった年ですね。

あと4点でした。」

事例Ⅰと事例Ⅱは合格点。

一方で、事例Ⅳでは、CVP分析の引き算を間違え、59点。

総合得点は236点でした。

「これは本当にショックでした。

かなり時間も使いましたし、お金も使いました。

今までで一番いけたと思っていましたから。」

ここまで何年も積み重ねてきた努力が、あと4点届かなかった。

Tさんは、この年が一番ショックだったと振り返ります。

「ここで諦めたら、もったいない」

——そのとき、受験をやめようとは思いませんでしたか。

「それは思いませんでした。

ここまで来たんで。

あと4点ですし、ここで諦めたら、それこそもったいないと思いました。」

ショックは大きかったものの、「やめる」という選択肢はありませんでした。

その代わり、「今までと同じではいけない」と考えます。

——そこから何を変えたのでしょうか。

「今度こそ妥協せずに学校へ通おうと思いました。

勉強会にも参加した方がいいと思って、TAC池袋に申し込みました。」

それまで一人で積み上げてきたTさんが、初めて「人から学ぶ環境」を選びます。

「考え方」を学ぶ場所があった

——TACへ通って、一番変わったことは何でしたか。

「やっぱり良かったですね。

周りに一生懸命勉強している人がいて、『みんなこんなに頑張っているんだ』ということが分かりました。」

土曜日は朝9時に自習室へ行き、講義が始まるまで過去問を解く。

その生活が、新しい勉強のリズムになりました。

「勉強する場所があるというのも良かったですし、集中できました。」

——勉強会はいかがでしたか。

「いろいろな方がいて、本当に刺激になりました。

すごく優秀な方もいて、『この人でも受からないんだったら、自分はもっと勉強しないといけないな』と思いました。」

それまでTさんは、「自分の答案」だけを見ていました。

しかし勉強会では、他の受験生の考え方や答案に触れることができます。

正解を探すのではなく、

「なぜ、この人はこう考えたのか。」

そう考えるようになったことが、Tさんにとって最も大きな変化でした。

「答え」を覚えるのではなく、「社長への助言」を考える

Tさんは、一次試験では「知識を積み重ねること」で結果を出しました。

しかし二次試験では、その成功体験だけでは足りませんでした。

問題文から社長の悩みを読み取り、与件文を根拠に助言を組み立てる。

その考え方を身につけるまでには、219点から236点まで、何年もの試行錯誤がありました。

「この勉強を続けたことで、物事の見方そのものが変わったと思います。」

そう振り返るTさん。

そして、その変化は、次の一年でようやく結果として表れます。

次回予告

「口述試験を受ける権利を得ました。」

会社の席でスマートフォンを開き、何が起きたのか一瞬理解できなかったというTさん。

周囲の同僚に画面を見せ、「これ、受かったってことですよね」と確認したあの日。

第3回では、5年間の挑戦を支えた家族や仲間との関わり、そして合格した瞬間に感じた率直な思いを伺います。

ABOUT ME
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浦 美和子
人材派遣会社で営業担当として、採用、配属後のフォロー、職場改善などに従事。2017年に中小企業診断士と国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得。現在は独立開業し、中小企業の経営支援を行う。得意分野は、人事労務・人材育成、事業承継など。