プロフィール

  • ペンネーム:Tさん(54歳)
  • 2025年度 中小企業診断士試験合格
  • 受験歴:合格まで約5年、4回受験
  • 職業:メガバンク勤務(法人営業歴30年以上・法人渉外課長)
  • 特徴:中小企業診断士一次試験は初年度に516点で合格
  • 勉強スタイル:一次試験はTAC『スピードテキスト』と過去問を中心に独学

「正直、ここまでかかると最初から分かっていたら、受けなかったかもしれません」

中小企業診断士への挑戦を始めてから、合格まで約5年。ところが、最初に受けた一次試験は516点という高得点でした。順調なスタートに見えますが、Tさんはその結果を「これが良くなくてですね」と振り返ります。

後に思わぬ落とし穴となった成功体験は、どのように生まれたのでしょうか。

学生時代から心に残っていた中小企業診断士

——現在のお仕事について教えていただけますか。

「大学卒業後、メガバンクに勤務しています。入社以来、30年以上にわたって法人のお客様を担当してきました。現在は法人渉外課の課長をしています。

今年54歳になりまして、そろそろセカンドキャリアや定年後のことも意識しなければならない年代になりました。中小企業診断士の勉強を始めたのも、そういったことを少しずつ考え始めた時期だったんです」

Tさんは大学卒業後、一貫して法人営業の仕事に携わってきました。課長として5~6年が経過し、仕事が以前より少し落ち着いてきたことも、資格への挑戦を考えられるようになった背景の一つでした。

——診断士という資格は、いつ知ったのですか。

「学生時代です。経済学部でマクロ経済やミクロ経済を学んでいて、それが結構面白かったんですよね。

『こういうふうに考えるんだ』という気づきがいろいろあって、経済に関わる仕事をしたい、大学での勉強につながる仕事がいいと思って銀行に入りました。当時から、中小企業診断士も面白そうだなと思っていたんです。

ただ、合格率が低かったので、働きながら受けるのはしんどいだろうと思い、実際には挑戦しませんでした」

学生時代に興味を持ちながらも、すぐに受験することはありませんでした。銀行で法人のお客様と向き合い続け、30年以上が過ぎた後、セカンドキャリアを考える年代になって、再び中小企業診断士が選択肢に浮かびます。

「銀行員だから大丈夫」という思い込みが崩れた簿記3級

——受験を決めた直接のきっかけは何でしたか。

「2021年に、当時の支店長から、課長も含めて何か資格に取り組むようにという話がありました。そこで最初は簿記3級を受けたんです。

銀行にいるので、簿記3級なんか簡単だろうと思って受験したのですが、落ちてしまいました。これはかなりショックというか、非常に自分自身が情けなかったですね」

銀行で長く働いてきた経験から、簿記3級なら対応できると考えていました。しかし、結果は不合格でした。

中小企業診断士への挑戦は、最初から順調に始まったわけではありません。まず、自分の知識や経験に対する認識を改めるところから始まりました。

——不合格後は、どのように学び直したのですか。

「そこからは、かなり真剣に取り組みました。いろいろ本を買って、3級の基礎からやり直したんです。

1か月後くらいにもう一度受けたところ、十分余裕を持って合格できました。せっかくここまでしっかり勉強したのだから、2級も受けてみようと思い、その後も勉強を続けて合格しました」

不合格になった問題だけを覚え直すのではなく、基礎から学び直す方法を選びました。その結果、簿記3級だけでなく、2級にも合格します。

「ここで終わる」という選択肢もありました。しかし、セカンドキャリアを考える中で、学生時代から興味を持っていた中小企業診断士を思い出したといいます。

「一生懸命、ちょっとやってみようかと思いました」

軽い気持ちで受けた簿記3級の不合格を経て、Tさんは資格試験への向き合い方を変えていました。

「やります」と宣言し、自分が続けられる環境をつくる

——受験を始めた頃の生活環境はいかがでしたか。

「仕事は結構忙しい職場でしたが、課長になって5~6年が経ち、少し落ち着いてきたかなという状況でした。

家庭では子どもが2人いて、上の子は高校生、下の子も中学生から高校生になるくらいの時期でした。以前のように、しょっちゅうどこかへ連れていくような年齢ではなくなったので、少し勉強時間は取れそうかなと思いました」

仕事がなくなったわけでも、家庭で自由に使える時間が急に増えたわけでもありません。仕事と子育ての状況が少しずつ変化し、「今なら時間を確保できるかもしれない」と考えられる時期を選びました。

——受験することは周囲に伝えていましたか。

「これは私のポリシーなのですが、『やる』と宣言して取り組んだ方が身が入ると思っているんです。ですので、中小企業診断士についても、最初から『これをやります』と宣言しました」

周囲からは、「それはどんな資格なの?」という反応が多かったそうです。

合格を期待されて始めたというよりも、先に言葉にすることで、自分自身が取り組む環境をつくりました。

7科目を並行せず、「一冊ずつ」進めた独学

——一次試験では、どの教材を選びましたか。

「一次試験は、ほぼTACの『スピードテキスト』一本です。通勤時間にテキストを読んで、過去問を解く。その繰り返しでした。

最初から全部の科目はできないと思ったので、一冊ずつ買っていきました。一つの科目で過去問を解き、ある程度できるようになったところで、次の科目へ進むというやり方です」

中小企業診断士一次試験は7科目あります。Tさんは、最初から複数科目を並行して管理するのではなく、一科目ずつ一定の水準まで仕上げてから次へ進みました。

受験を決めたのは5月のゴールデンウィーク頃でした。試験までの期間は長くありません。その中で、教材を広げ過ぎず、テキストと過去問の往復に絞りました。

——独学を選んだ理由は何でしたか。

「完全独学でした。このスタイルになったのは、お金をかけないと考えていたからです。TACのテキスト代と、模試の費用くらいでした」

Tさんは、独学そのものに強いこだわりがあったとは話していません。まず「お金をかけない」という条件を置き、その中で使う教材と学習方法を組み立てました。

ブログを読むことはあったものの、当時は内容を十分に理解できず、学習仲間やSNSでの情報交換もありませんでした。一次試験までは、教材を選ぶところから日々の進捗管理まで、一人で進めていきました。

通勤時間で読み、朝に一年分を解く

——毎日の勉強時間はどう確保しましたか。

「当時、通勤時間が往復で1時間半くらいありました。その時間を使ってテキストを読みました。

夏くらいからは、朝早く起きて、1時間から2時間ほど過去問を解いてから会社へ行く生活をしていました。週末は、土曜日と日曜日にそれぞれ半日くらい過去問を解いていました」

平日の通勤時間はインプット、朝は過去問を使ったアウトプット。まとまった時間を待つのではなく、生活の中にある時間を役割ごとに使い分けました。

——朝はどのように科目を割り振りましたか。

「朝早く起きると、60分の試験科目であれば一年分を解けるんです。

週5日のうち4日くらいは60分科目を一年分ずつ解いて、90分の科目は土日に解く。そんな形で進めていました」

「毎朝何時間勉強する」と決めるだけではなく、試験時間を基準にして、一回の学習で何を終えるかを明確にしていました。

過去問は8年分ほどに取り組み、初年度だけで2~3周したと振り返ります。朝の時間に一年分を解く方法は、過去問を繰り返すための具体的な仕組みになっていました。

その一方で、7科目すべてが同じように進んだわけではありません。

特にTさんを悩ませたのが、似た言葉や数字の多い「中小企業経営・中小企業政策」でした。覚えても混同する知識を前に、Tさんは一度作ったノートを、何度も作り直していきます。

似た制度や数字は、ノートを作り直して整理する

——苦手だった科目は何でしたか。

「中小企業政策ですね。覚えることが多いですし、補助金など、似たような言葉も多かったので、しっかり覚えるのに苦労しました」

中小企業経営・中小企業政策では、制度名や対象者、要件、数値など、区別して覚える知識が数多くあります。

一度読んだだけでは整理しきれなかったため、Tさんは自分の理解に合わせて、ノートを何度も作り直しました。

——ノートはどのように作っていたのですか。

「自分なりに体系的に言葉を整理しました。一回では理解が十分ではなかったので、何回か作り直しましたね。

科目別に分けたわけではなく、よく間違えるところを、科目に関係なくどんどん書いていきました。時間が空いたときにそれを見て、記憶を定着させるようにしていました」

最終的にノートは3冊ほどになりました。

すべて手書きで、必要に応じてテキストの表をコピーして貼り付け、かばんに入れて持ち歩いていたそうです。

きれいなノートを一度完成させることが目的ではありません。問題を解く中で見つかった「自分が間違えやすいところ」を加え、理解できていない部分があれば、整理の仕方から見直していきました。

模試の結果が悪くても、間違いを次の材料にする

——TACの模試を受けたときの感触はいかがでしたか。

「ひどかったですね。本当にひどくて、『こんなに難しいんだ』と思いました」

ゴールデンウィーク頃に学習を始めてから、思ったより順調に知識が身につき、夏頃には「ひょっとしたら一次試験に合格できるかもしれない」と感じ始めていました。

しかし、TACの模試では思うような結果が出ませんでした。

それでも、ここで学習方法を大きく変えることはありませんでした。

——模試の後は、どのように立て直したのですか。

「模試も過去問と同じように、間違えたところをマイノートに入れました。

8月に入ってからは、かなり追い込みました。試験の一週間ほど前には休みを取り、図書館で勉強しました」

模試の点数だけを見て方法を変えるのではなく、間違えた箇所を、それまで使ってきたノートへ戻していきました。

テキストを読み、過去問を解き、間違えた知識をノートへ加えて見直す。学習開始から直前期まで、基本となる流れは一貫していました。

家ではなく図書館へ。勉強する場所も調整する

——休日はどこで勉強していましたか。

「朝は自宅で一人、静かに勉強していました。

土日は家のリビングで勉強していたのですが、ずっとリビングにいると妻が非常に嫌な顔をするので、それで図書館に行っていましたね」

仕事をしながら勉強を続けるには、時間だけでなく、場所の調整も必要でした。

平日の朝は自宅、通勤中は電車、週末や直前期は図書館。それぞれの生活場面に合わせ、集中できる場所を使い分けていました。

——学習仲間やSNSでのつながりはありましたか。

「ありませんでした。完全に一人でしたね。

ブログを見ることはありましたが、当時は正直、あまり参考にはなりませんでした。皆さんが『レイヤー』などと言っているのを見て、こういうことをやっているんだ、というくらいでした」

一次試験の段階では、誰かと答案を見せ合ったり、学習方法を相談したりする機会はありませんでした。

一人で進めることが合っていたと結論づけていたわけではなく、費用を抑える方針の中で、手に入れた教材を使いながら自分なりに学習を組み立てていました。

この時点では理解できなかったブログ上の言葉が、後の二次試験で改めて意味を持つことになります。

「勉強が息抜き」と感じられた初年度

——仕事と勉強が続く中で、息抜きはしていましたか。

「特に、そういうことはなかったですかね。

仕事が結構忙しかったので、勉強が逆に息抜きになるくらいの気持ちでした」

——勉強すること自体は楽しかったですか。

「楽しかったですね。本当に一年目は楽しかったという記憶があります」

一次試験の7科目には、経済学、財務・会計、企業経営理論、運営管理など、Tさんが銀行での仕事や大学時代の学びと接点を持つ分野もあります。

仕事を終えてから、さらに義務として勉強していたというよりも、新しい知識を学ぶ時間そのものを楽しんでいました。

ただし、楽しんで学べたことと、負担が小さかったことは同じではありません。

平日は通勤時間と朝、週末は半日ずつ学習し、直前には休暇を取って図書館へ通いました。「楽しかった」という言葉の背景には、日々の生活に組み込んだ継続的な学習がありました。

3か月で516点。それは想定外の結果だった

——最初から、その年の一次試験合格を目指していたのですか。

「一年目で一次試験に合格できればラッキー、というくらいでした。

もし全科目に合格できなくても、二年目に残りの科目と二次試験を受ける。そんなスケジュールで考えていました」

受験を決めたのは5月のゴールデンウィーク頃です。

最初から、短期間で7科目すべてに合格できると見込んでいたわけではありませんでした。まずは学習を進め、科目合格も使いながら、二年ほどかけて一次試験と二次試験を突破する計画でした。

しかし、テキストと過去問を繰り返す中で学習は想定以上に進み、初年度に7科目すべてを受験します。

——一次試験の結果を知ったとき、どう感じましたか。

「自己採点をしたら516点でした。自分でもびっくりしました」

受験前には、一次試験に合格できるという確信はありませんでした。

ところが、結果は合格基準を大きく上回る516点。ゴールデンウィーク頃から始めた学習が、想定を超える点数につながりました。

一方で、Tさんはこの結果を、単純な成功体験として振り返ってはいません。

「ただ、これが良くなくてですね」

そう前置きしたうえで、当時の認識を明かします。

「『受かるんじゃないか。簡単じゃないか』と思っちゃったんですよね。

一次試験でこれだけ取れたのだから、二次試験の合格率を考えても、『これは受かるな』と思いました」

516点という結果は、それまで積み重ねてきた学習の成果でした。

同時に、「一次試験でこれだけできたのだから、二次試験も何とかなる」という見方を生みます。

一次試験を受けるまで、Tさんは二次試験の内容を詳しく確認していませんでした。合格が分かってから初めて、どのような問題が出るのかを知り、慌てて準備を始めることになります。

過去問を解き、間違いをノートへ戻す。

簿記3級の不合格をきっかけに身につけた学習方法は、中小企業診断士一次試験でも結果につながりました。

しかし、正解が明確な一次試験で通用した方法を、正解が公表されない二次試験でどう使えばよいのか。その違いに、Tさんはまだ気づいていませんでした。

516点という成功は、5年間にわたる挑戦のゴールではなく、思いがけない迷いの入口にもなったのです。

次回予告

初年度の一次試験を516点で突破し、「二次試験も何とかなる」と考えたTさん。

しかし、最初の二次試験では、事例ごとの違いも、答案へ至る考え方も十分に理解できないまま本番を迎えます。結果は219点でした。

第2回では、『ふぞろいな合格答案』を読んでも腑に落ちなかった理由、独学や通信講座で試行錯誤した過程、そして「正解を探す勉強」から抜け出すまでの変化を伺います。

ABOUT ME
アバター画像
浦 美和子
人材派遣会社で営業担当として、採用、配属後のフォロー、職場改善などに従事。2017年に中小企業診断士と国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得。現在は独立開業し、中小企業の経営支援を行う。得意分野は、人事労務・人材育成、事業承継など。