5年目で受かると決めた中小企業診断士、独立後の現実
中小企業診断士試験に合格するまで、高田さんは5年かかった。
第1回では、暗記科目に苦戦しながら一次試験を突破した過程を聞いた。第2回では、手応えのない二次試験で、何を信じて積み上げたのかを追った。
最終回では、勉強を続ける中でしんどかった時期、家族への負担、気持ちの立て直し方、そして合格後に独立診断士として動き出した現在を聞く。
「5年目で絶対受かる」と決めた背景には、どんな現実があったのか。
中小企業診断士の多年度受験、4年目で一次試験にこけた現実
—— 一番しんどかった時期はいつでしたか。
「一番つらかったのは、4年目でまた一次試験を受けることになって、そこで4科目しか受からなかった時ですね。
4年目で受かる気満々だったんですけど、まさか一次でこけるっていう。そこは結構きつかったです。」
—— なぜそこがきつかったのですか。
「ここまで勉強をやったのに、落ちるのかという気持ちがありました。
一次試験は一度合格を経験しているし、全科目合格できると思っていたので。そこで一次試験を落ちてしまったのは、気持ち的に相当落ち込みました。」
2年目に一度、一次試験は突破している。それでも二次試験に合格できず、4年目には再び一次試験から受け直した。そこで7科目一気に突破できず、4科目合格にとどまった。
—— 気持ちはどう切り替えましたか。
「ここまでやったんだから、諦めたくないという思いはありました。落ち込んではいたんですけど、次をラストイヤーと決め、勉強を続けることは決めていました。
ただ、モチベーションは上がらないんです。そういう時は、TAC池袋校の辻井先生にも相談し、進路や勉強方針を聞いてもらい、愚痴をこぼしていました(笑)。
そこから一次試験の勉強はLECに行ってみようと環境を変えて、その日一日の勉強にフォーカスしました。今日は参考書を30ページ読む、というような積み重ねで、徐々にモチベーションが下がったところから戻していった感じです。
ただ勉強中に時々、落ちたことを思い出して引きずっていましたが、結局勉強を続けることでしか、心のもやもやを解消できないんですよね。
最終的には5年目で絶対受かるぞ、という強い意志をもって勉強に取り組むことができました。」
4年目に一次試験でつまずいたあと、すぐに前を向けたわけではない。それでも、続けること自体は決めていた。5年目は「絶対受かる」と決め、ラストイヤーの覚悟で勉強に臨んだ。
家族に迷惑をかけながら、それでも続けた
—— 家族の支えはありましたか。
「ありました。ずっとサポートしてくれたのは妻なので。家族に本当に迷惑をかけていたと思います。
勉強時間を取るので、平日も土日も勉強していましたし、5年目は特に時間を使っていましたので、家族との時間はどうしても減っていたと思います。
受かったときも、まず妻に伝えようと思って電話しました。」
家族の支えを、美談として一言でまとめるのは簡単だ。ただ、高田さんの言葉はもっと現実的だった。勉強時間を増やすほど、家族との時間は減る。その自覚を持ちながらも、最後まで続けていた。
走る時間が、頭を無にする時間だった
—— 息抜きはありましたか。
「ランニングですね。走っている時って、呼吸に集中するというか、頭を無にできるんです。
走ることでリフレッシュできました。」
—— 勉強で疲れている時も走っていましたか。
「疲れていても、走ると小さい達成感も得られますし、気持ちをリセットできるところはあり、続けていました。
直前1か月は万が一のケガも怖かったので、走っていません。」
もともと高田さんは、トレイルランニングが趣味だった。コロナ禍で外出しづらくなったことが、診断士の勉強を始めるきっかけにもなっている。勉強が生活の中心になってからも、走る時間は頭を切り替える時間になっていた。
「このやり方は合っているのか」と迷う人へ
—— 勉強法に迷う時はありましたか。
「勉強していくと、このやり方って合っているのかな、自分のやり方が間違っていないかな、ということで悩むことはありました。
でも、結局それって正解はないと思っています。」
—— どう考えていましたか。
「やり方を決めたら、それを正解にするためにどうしていくかを考えていく。
ゴールを見据えて、自分が今どうするのかを決める。決めたんだったら、やり方は変えなくていいんじゃないかと思います。」
—— 情報との距離感はどうでしたか。
「先に合格した身近にいる同期や、先輩診断士の話は参考にしていました。
いろんな情報があるので、信じられる人以外からの情報に振り回される方が非効率だと思います。
特に二次試験はそうですね。私はTAC池袋校の辻井先生のやり方で解こうと決めたので、信じ切ってやるしかないと。」
勉強法には、いくつもの選択肢がある。ただ、どれを選ぶか以上に、選んだものをどう自分の中で積み上げるかが大事だった。
—— SNSやYouTubeは見ていましたか。
「SNSやYouTubeは、必要以上には見ないようにしていました。見始めると、いろいろな情報が入ってきてしまうので。」
瞑想とタイマーで集中時間へ
—— 集中するための工夫はありましたか。
「TACの自習室やカフェなどで勉強するときは、勉強前に少し瞑想をしていました。瞑想したら勉強する、というスイッチを入れていました。
スマホのタイマーを使って、90分で区切って勉強していました。タイマーの時間が来るまでは、スマホを見ないで勉強すると決めていました。そうすることで、その時間を集中して勉強することができました。」
何を見るかだけでなく、何を見ないかも決めていた。勉強に入る前の瞑想と90分タイマーで、集中する状態を作っていた。
中小企業診断士として独立後、顧問契約3件から始まった現実
—— 合格後はどう動きましたか。
「今年の5月に診断士登録を終えて、独立しています。
また、東京都中小企業診断士協会の三多摩支部に所属しています。」
—— 最初の仕事はどう生まれましたか。
「前職の会計事務所のお客様と、私が診断士に合格したことをご報告させていただいたタイミングで、お祝いしたいからお酒を飲みに行こうと誘っていただいて。
そこで、私から何か経営全般で困っていることはないですか、とお話をしたら、経営の今後の方向性で悩んでいるという話があり、顧問契約に繋がりました。」
—— 相談につながった理由は何でしたか。
「税理士の先生に相談したいんだけど、忙しそうだし相談しにくい。でも高田さんだったら過去の付き合いがあって自社のことも理解してくれているし、相談しやすいかな、話を聞いてくれそうだな、という過去の関係性を評価いただいた感じでした。
その流れで、顧問契約を今3件ほどいただいています。」
前職時代の関係から顧問契約につながり、そこに協会や地域の診断士会の仕事を組み合わせて動き出している。
—— ほかにはどんな仕事がありますか。
「協会からの公募案件が、東京都だと結構あります。今、運よく3件ほどアサインされています。
それとは別に、地域の診断士会の経由で仕事を請け負っています。」
前職のつながり、協会の公募案件、地域の診断士会。複数の入口を持ちながら、少しずつ仕事を広げていた。
仕事につながることに手を挙げ、自分の強みを探す
—— 診断士として、今後どうしていきたいですか。
「この一年は、仕事に繋がるか繋がらないかに関係なく、できることにはどんどん手を挙げていこうと思っています。
収入はもちろんですが、人脈やスキルアップも含めて、自分が将来診断士として何ができて、今後どう活動の幅を広げていけるかを考える時期だと思っています。」
—— どんな方向を考えていますか。
「自分なりの仕事を開拓できるような独自ルートを、近いうちに見つけたいと思っています。
やはり、公的案件だけだと不安定なので、顧問契約を結んだり、長期的な支援をしていきたいです。お客様への支援は、やっぱり長期的に関わらないとお客様が本当に解決した、と思えるところまで支援できないだろうな、と思いますし。」
—— 関心のある分野はありますか。
「人脈を広げ、辻井先生のように全国各地でセミナーをするような仕事もやってみたいです。
分野としては、農業支援や、高齢化社会に向けたサービス関係、終活サポートなども考えています。
そうした活動の中で、徐々に自分の診断士としての強みをつけられたらいいなと思っています。」
独立診断士としての方向性は、まだ固まり切っているわけではない。だからこそ、この一年は仕事につながることに手を挙げ、人脈を広げ、スキルを積みながら、自分の強みを探している。
「最後の最後まで、チャンスはある」
—— 受験生に伝えたいことは何ですか。
「診断士合格を諦めてほしくないです。
試験は本当に水物です。どんなに実力がある人でも、その日の問題との相性で落ちることはあります。逆に、『手応えが全くなかった、もうダメだ』と絶望していた人が、蓋を開けたら受かっていたケースも、自分を含め何度も見てきました。
中小企業診断士試験は、自分が難しかった時は、周りもみんな苦戦しています。常に油断大敵を心がけ、途中で心が折れそうになっても、試験の最後の1分1秒まで足掻いてください。最後の最後まで諦めなかった人にだけ、運も吸い寄せられ、合格のチャンスも巡ってきます。応援しています!」
—— 勉強を続けるうえで、気をつけてほしいことはありますか。
「あまりその日のタスクを課しすぎないことです。やることを増やしすぎるより、ここまでやると決めたことをしっかりやる。
他には、この日は勉強をしない、という日をあらかじめ決めておくなどして、罪悪感を持たずにしっかり脳を休ませることも私は大事でした。それによって、濃密な勉強の時間を過ごせたかな、と思います。
勉強期間が長期になるので、ずっと高いモチベーションを維持できればいいですが、なかなかそういう方はいないのではないかと思います。普段は勉強や試験への意識の置き方を7〜8割にし、演習や模試、本番で10割出せるようにする、みたいな意識でしょうか。」
「あとは、基本論点を絶対に落とさないこと。『満点ではなく、合格点を泥臭く取りにいく』という割り切りを忘れないでほしいです。」
「テキストを読むだけの勉強は、やった気になりますが知識が定着しません。早い段階で過去問や問題集に触れること。間違えることは嫌ですが、その間違いが学びに繋がりますので、特に二次試験は手を動かす時間を増やした方が良いと思います。」
「SNSなどを見ると他人の進捗が気になると思いますが、自分と比べても、焦りが生まれるだけで何もいいことはありません。競うべき相手は他人ではなく、昨日の自分です。昨日解けなかった問題が、今日1問解けるようになったなら、それだけで合格に一歩近づいています。自分のペースを信じて突き進んでください。」
—— 本番に向けて意識したことは何ですか。
「勉強する時の心としては、本番を常に意識することです。特に二次試験は時間配分が非常に重要なので、私はそこは意識していました。あとは本番までに体調管理を徹底すること。
例えば、起きる時間、食べるもの、使う文房具、問題を解く順番。すべてを普段の勉強と同じにすること。本番をただの日常にする意識が緊張を防ぐと思います。
他には、試験開始の合図が鳴った瞬間、頭が真っ白になることがあるかもしれないと思い、最初の5分間に何をするかを完全に自動化しました。一次試験なら『まず全体をめくってマークミスを防ぐ』、二次試験なら『まずは解答用紙に受験番号を書いて、ホッチキスを取って、設問を読んで、マーカーを引く』。パニックになっても勝手に体が動くレベルまで、開始直後の動きをイメージトレーニングしていました。」
高田さんは、最初から順調に合格したわけではない。一次試験で暗記科目に苦戦し、二次試験も2回不合格になり、4年目にはまた一次試験でつまずいた。
それでも5年目に「絶対受かる」と決め、やり方を決め、必要なことに手を動かし続けた。
「頑張れば受かる」と簡単には言えない。ただ、試験が水物だからこそ、最後の最後まで本番を見据えて積み上げる意味がある。
