中小企業診断士二次試験は、知識の正誤を問う一次試験とは異なり、明確な正解が公表されない記述式の試験であり、受験生を阻む最大の関門です。この試験では、自分自身の「手応え」と実際に出る「結果」が大きく乖離するパラドックスが頻繁に起こります。

入念な準備をして臨んだ1年目の不合格、そして「多少諦めモードもあった」と振り返る2年目の合格。予備校で提示された高度な解法手順を前にして、自身のキャパシティの限界と向き合ったジョギング診断士会会員さんは、いかにしてこの見えない壁を乗り越えたのでしょうか。

完璧を求めずに「あえて解法をそぎ落とす」という現実的な割り切りと、本番のパフォーマンスを支えた体調管理の戦略に迫ります。

独学での限界の判断と、予備校の解法手順との出会い

二次過去問を目にして、なぜ独学は無理だと判断したのですか。

ウェブサイトに載っている過去問を見て取り組もうと思ったのですが、すぐに気づきました。「これ、何を書けばいいかわからない」ということで、全く独学では歯が立たないなと。

1週間くらい自分で過去問をやってみて、これはとても無理だということに早々に気づいたのです。そこでTACを調べて、私の元上司などにも聞いたら「池袋校がいいよ」という話がありました。

学校に通うという選択に、迷いはありませんでしたか。

「そんなところにお金を出して行くんだな」と、そういった感覚は実はあまりなかったのです。ただ元上司も言うし、じゃあ行ってみようかというところで、説明会に参加をいたしました。

1回目の一次試験を終えた2023年11月に予備校の説明会へ足を運んだジョギング診断士会会員さんは、独学での記述対策に限界を覚え、プロの指導を受ける道を選択した。

自主学習グループを活用する中で、どのような影響を受けましたか。

2024年の1月からTAC池袋校の辻井先生のクラスに参加し、自主グループにも入りました。グループは「GREAT」「EXCELLENT」「崖スパ」の3つに大別されるのですね。

私は1年目は一次試験が残っていたので、その両方をやる「GREAT」というものに参加しました。2年目は当初、1ヶ月あたり100時間以上勉強するという「崖スパ」に参加したのです。

2年目のグループ活動は、最後までそのまま続けられたのですか。

ちょっと勉強時間が確保できないというのがあったので、途中で「EXCELLENT」に切り替えました。時間の縛りが少し緩めのグループにしたので、あまり勉強はしなかった方かというところです。

この発言からは、周囲の受験生が競い合う環境の中でも、自身の仕事や生活のキャパシティを見極めて冷静に学習環境を調整する、ジョギング診断士会会員さんならではの現実的な判断基準が伺える印象を受ける。

講師の解法手順を自分に合わせて簡略化・取捨選択する工夫

各事例の対応や、一次知識の結びつけで苦慮した点は何でしたか。

正直に言うと、全科目苦手というか、得意と感じたことは正直なかったんですね。文章を読んで、自分なりに要約という形で解答することに対して、得意な感覚は全くなかったです。

結果だけを見ると、事例Ⅰが最も苦手で、事例Ⅲが相対的には得意だったように見えます。一次で勉強したことと、二次試験の事例の中で、その知識をつなぎ合わせるのが苦手だったのです。

知識の結びつけにおいて、具体的にどのような難しさがありましたか。

座学とその実態の差と言いますか、そこの結びつけというところがなんかピンとこないことも多かったです。文書量や情報量が多くなったりすると、どうしてもやはり抜け漏れが多くなってしまいました。

設問が求める要約スキルへの苦手意識に加え、経営の座学知識と事例企業の現実を紐付けるプロセスの難解さが、大きな課題として立ちはだかっていた。

提示された解法の手順を、どのように自身の型に落とし込みましたか。

解法の手順はかなり手順化されていたので、辻井先生のやり方に沿うことを徹底しました。設問分析から本文を読んだ時の処理の仕方まで、型を作るというより手順に則ることに注力したのです。

先生の教えをそのまま再現することは難しかったのですか。

全てをやろうとすると私自身はパンクするので、自分自身でやれる範囲を設定して省略しました。先生のやり方に対して、自分なりにこことここはもう簡略化してやろうという感じで取り組みました。2年間、それで取り組み続けたという感じだったのかなと思っています。

合格実績のある予備校の解法を信頼しつつも、高度な処理をすべて鵜呑みにすれば処理能力を超えてしまう。ジョギング診断士会会員さんは、自身の適性に合わせて解法の一部をあえて簡略化・省略することで、破綻しない「自分だけの合格の型」を構築していった。

主観を排除する答案作成の練習と、本番の体調管理プロセスの確立

講義での解き直しにおいて、どのような点を意識していましたか。

普段の講義の試験において、自分なりにもう一度解答を作り直すことは毎回やっていました。それは効果があったのかなと思っていまして、自分の主観を排除する練習になりました。先生の解説は、中小企業診断士協会が望む解答をどういうプロセスで書くかという内容だったからです。

ご自身の解答と先生の解説を、どのように比較していたのですか。

「自分はこのプロセスで文章を作ったが、先生はこういうプロセスで作り上げたんだ」と確認します。その考えのプロセスを追体験して、もう一度試験を解き直して解答を仕上げることをやりました。

自身のビジネス経験からくる主観や思い込みを排除し、試験の本質に沿った思考プロセスを模写するように追体験する解き直しを徹底した。

本番に向けて、食事や休憩などのルーティンをどう確立しましたか。

試験慣れするために数回の他社模試を受験し、自分なりに行動を固く決めていました。前日の何時に何を食べるか、当日の朝何時にご飯を食べて移動するかといった内容です。

昼食はカロリーメイトにして、すぐに食べたらその場で机の上で突っ伏して寝るようにしました。

午後の事例Ⅳに向けては、どのような対策をしていたのですか。

事例Ⅳの前にエナジードリンクを飲むのをルーティンにして、集中力を維持する工夫をしました。本番の脳の機能を維持するための食事の摂り方や休憩の仕方が、2年間で確立された感じです。

このように徹底したコンディション管理と独自の解法プロセスを重ねて臨んだ2年目の二次試験だったが、本番直後の自己評価は予想外のものだった。2回目の試験後は「多少諦めモードもあった」ことから再現答案すら作成せず、合格発表当日も「おそらく合格はしていないという確信があった」ために、初日は結果を確認しなかったという。

周囲の受験仲間がLINEで結果を共有している様子を見て、重い腰を上げてWebサイトを確認したところ、「口述試験を受ける資格が届きました」という文字を目にする。それでも受かるつもりがなかったジョギング診断士会会員さんは、数日後に自宅へ合格のハガキが届いたその時に初めて、「あ、これは通ったんだ」と事実を受け止めた。自分の手応えと実際の結果が大きく乖離するという、まさに二次試験特有のパラドックスを体現した瞬間であった。


独自の型とルーティンを少しずつ確立し、二次試験へと挑み続けたジョギング診断士会会員さん。しかしその裏では、身内の不幸、実家への転居、異業種への転職、さらには社内での新組織立ち上げといった環境の変化が同時に押し寄せていました。

「家族、仕事、勉強」の優先順位を整理し、淡々と学習を継続した合格者の道のりに迫ります。次回、最終回「総合・人間面編」をお楽しみに。

ABOUT ME
SHINJI
製薬業界に20年以上従事。大手内資・外資系製薬企業にて、MR、プロダクトマーケティング、KAM(キーアカウントマネジメント)と医療用医薬品のコマーシャルの中核領域を一貫して経験。激変する事業環境の中で、自らのキャリアを再定義し「自立したビジネスパーソンとして新たな道を切り拓く」べく中小企業診断士試験に合格。現在は企業内診断士として、現場力と経営理論を融合させた実践を重ねている。