戦略

中小企業の派遣社員活用術:メリットとデメリットを徹底解説

中小企業において派遣社員の活用に対して消極的な企業も多く、その理由としてよく挙げられるのが「コストが高い」といった点です。しかし、実際にはそのコストが一概に高いとは限りません。

一般社団法人 日本人材派遣協会が行った「派遣社員WEBアンケート調査(2023年度)」によると、約4割の派遣先が中小企業であり、派遣社員を活用する企業は年々増加傾向にあります。
その背景は、経営の効率化や柔軟な人材運用が可能になるという多くのメリットがあるためです。

本記事では、派遣社員を活用したことがない中小企業経営者や人事・総務担当者に向けて、活用術とメリット・デメリットを解説します。

自社の人材戦略や課題解決の参考としていただければと思います。

中小企業が派遣社員を活用するメリット

中小企業が派遣社員を活用する理由は、コスト削減や業務効率の向上だけでなく、柔軟な人材活用が可能になるからです。

以下では、派遣社員を導入する際の具体的なメリットを詳しく見ていきます。

  1. 採用コストを抑えられる
  2. スキルのスクリーニングができている
  3. 必要な時間・必要な期間のみ勤務してもらえる
  4. 自社に足りないノウハウをもっている
  5. 給与支払いや社会保険の手配は派遣元会社が行う
  6. 就業規則がいらない

①採用コストを抑えられる

正社員の採用には、採用活動費用や求人広告費、面接や選考にかかる時間など、多くのコストがかかります。また、採用後もトレーニングや研修など、社員教育のための費用が発生します。

これに対して、派遣社員は派遣元が人材の選定・マッチングを行うため、採用にかかるコストを大幅に抑えることができます。
さらに、派遣社員は短期的な契約が多いため、正社員の採用に伴う長期的なコスト(社会保険料や退職金など)を避けることができます。

必要な期間に必要な人数だけを雇用できるため、コスト効率が良いと言えるでしょう。

②スキルのスクリーニングができている

派遣社員は、派遣元が事前にスキルや経験をスクリーニングしているため、即戦力として活躍できる人材を短期間で確保することができます。

特に、特定の技術や専門知識を必要とするポジションの場合、派遣社員のスキルが業務に直接反映されるため、教育や研修の時間を節約できます。

例えば、IT業界や製造業など、特定のスキルを持った人材が求められる場合、派遣社員はその分野の経験者を選ぶことができるため、即戦力として活躍することが可能です。

③必要な時間・必要な期間のみ勤務してもらえる

派遣社員の最大の特徴は、契約期間が柔軟であることです。企業側は、必要な期間だけ派遣社員を雇うことができるため、季節的な需要や短期間のプロジェクトに合わせた人員配置ができます。

また1週間のうちの繁忙の曜日や1日のうちの繁忙な時間のみ勤務してもらうなど、アイドルタイムをなくし、コスト効率よく業務を進めることが可能です。
例えば、繁忙期に向けて人手が必要な場合、派遣社員を契約することで急な需要に対応できます。
産休代替や傷病代替が必要な時や特定のプロジェクト実施時に即戦力で必要な期間のみ勤務してもらうなどが具体的な活用事例として挙げられます。

採用がすぐにできない、社員が戻ってきたタイミングやプロジェクト終了時に余剰人員を抱えられない、という悩みに対応できるので、中小企業での派遣社員の活躍はもっと広がる余地があるのではないでしょうか。

④自社に足りないノウハウをもっている

中小企業にとって、自社の業務に不足している専門的な知識やノウハウを持った人材を確保することは重要です。

派遣社員は、その業界や分野に特化した経験や知識を有している場合が多く、自社に足りないノウハウを補完する役割を果たします。これにより、自社の業務をより効率的に進めることができ、業績向上に繋がります。

特に、企業規模が小さい場合には、専門的なノウハウを持つ派遣社員を活用することで、業務の質を向上させることができるでしょう。

⑤給与支払いや社会保険の手配は派遣元会社が行う

派遣社員を採用する場合、給与支払いや社会保険の手続きなど、給与関連の管理業務は派遣元が行います。そのため、企業側は給与計算や社会保険の手続きを行う負担を減らし、業務に集中できます。

特に人事部門や経理部門の負担軽減に繋がり、管理業務の効率化が図れる点が大きなメリットです。

⑥就業規則がいらない

派遣社員を受け入れる場合、自社の就業規則に従わせる必要はありません。

派遣社員は派遣元との契約に基づいて働くため、就業規則を自社に合わせて調整する必要がないという点でも、管理負担が軽減されます。企業側は、派遣社員を業務内容に合わせて柔軟に運用できるため、管理業務が効率化されます。

派遣社員を受け入れる際のデメリット・注意点

派遣社員を活用することには多くのメリットがありますが、注意すべきデメリットも存在します。

  1. 派遣法の遵守
  2. 契約内容に記載された業務のみ依頼が可能
  3. 自社にノウハウがたまらない

これらを事前に理解し、適切に対応することが重要です。

①派遣法の遵守

派遣社員を受け入れる際には、派遣法の遵守が求められます。派遣社員の雇用には法律で定められたルールがあり、派遣先企業はこれを守る義務があります。

例えば、派遣期間の上限や派遣契約に関する条件などがあり、これに違反すると法的な問題に発展する可能性があります。

適切に派遣契約を結び、法令に従うことが重要です。

②契約内容に記載された業務のみ依頼が可能

派遣社員は、契約内容に記載された業務のみを行うことが義務付けられています。

その業務範囲に合致した作業しか依頼できませんので、追加の業務をお願いしたい場合には、契約内容を見直し、派遣元と調整する必要があります。

この点を誤解すると、トラブルの原因となるため、事前にしっかり確認しておくことが大切です。

③自社にノウハウがたまらない

派遣社員はあくまで短期的なリソースであるため、長期的なノウハウの蓄積には限界があります。派遣社員が有する知識や技術は社内に残らないことが多いです。

中小企業にとっては、長期的な視点で人材を育てることが重要ですが、派遣社員の活用がその面で障害となることがあります。

ノウハウの蓄積を目指すには、正社員とのバランスを考えた運用が求められます。

まとめ

中小企業が派遣社員を活用することで、採用コストの削減や即戦力の確保、業務効率化など、さまざまなメリットを享受できます。

しかし、その活用には派遣法の遵守や契約内容に基づく業務遂行といった注意点もあります。

派遣社員の利用は、企業のニーズに合わせた柔軟な人材運用を可能にしますが、長期的なノウハウの蓄積には限界があるため、正社員とのバランスを考えた戦略が求められます。

派遣社員を活用することで、中小企業は効率的に業務を進め、競争力を高めることができる可能性があるので、検討してみてはいかがでしょうか。

ABOUT ME
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浦 美和子
人材派遣会社で営業担当として、採用、配属後のフォロー、職場改善などに従事。2017年に中小企業診断士と国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得。現在は独立開業し、中小企業の経営支援を行う。得意分野は、人事労務・人材育成、事業承継など。